ゼルの又貸しは許しがたいが
しかしその点についてパルプンテに焼きを入れてもしょうがない。
「それは一番気に入ってるんだ。ちゃんと返せよな」
「かっこいいもんね、これ。なんてモンスターがモデルなの?」
「モンスターじゃない。想像上の動物……ライオンだ。
 とても強い。誇り高くて……強いんだ」
そして働かないでハーレムを作り、オスは交尾だけして過ごす。
「誇り高くて……強い? ヒャダルコみたく?」
それはどうでもいいのだが
みんな待ってるよ。なにのんびりしてるの。
「そうだといいけどな」
とりあえず、ヒャダルコは強くはない。
「このライ……オ…ン? て、名前はあるの?」
もちろんだ、とヒャダルコは即答する。
もちろんって、お前は指輪に名前をつけるような子なのか。
もしかしたら、父親であるラグナの持ち物だったのかも。
ラグナなら指輪に名前の一つや二つつけそうだ。


さて、指輪に名前をつけられるのだが。
これがラグナの肩身だということにするならば
奥さんおっかない、ってことで『レイン』にしたいところだ。
これはたぶん最後で最強の師匠になるのだ。
それが、お母さんの名前であるレインだなんてステキじゃないですか?
(注:ゲーム内で、ヒャダルコの両親がラグナとレインだなんて一度も言ってません)
しかし師匠である以上、師匠の命名ルール『かっこわるかっこいい(ヘタウマみたいなもの)』でいかなければ。
ライオンかあ……。
俺は西武線で生まれ育ったので
ライオンと言えば西武ライオンズである。
西武ライオンズといえば優勝セールである。
優勝セールといえば、一日中ライオンズの応援歌がかかっていた。
松崎しげるのあの声が、だ。
西武線沿線の本屋でバイトしていた頃は気が狂うかと思ったものだ。
だから『しげるまつざき』も捨てがたい。
『レイン』か『しげるまつざき』か……。
最後にこの師匠に助けてもらう展開になるからレインだと感動的だ。
でもそうすると、ひとつ心配が生まれる。
その頃には絶対にここで命名したことを忘れているだろうから、もし『レイン』にすると
「最後は母の愛か……」なんてボケたコメントをしかねないのだ。
ということで『しげるまつざき』に決定。大事にしろよ、パルプンテ


「あのね、ゼルがこれを見ながら同じの作ってくれるんだよ」
それはどうでもいいのだが
みんな待ってるよ。なにのんびりしてるの。
「そしたら、私もがんばってみる。ライオンみたいになれるように」
いや、作ってもらってからじゃなくて、今からがんばれ。せっかく貸してやってるんだから。
「でもさあ!」
「同じ指輪してたらみんなに誤解されちゃうねえ」
されない。
ヒャダルコにつきまとってるのがいるんだな、を思われるだけだ。
それはどうでもいいのだが
みんな待ってるよ。なにのんびりしてるの。
ヒャダルコもさすがに照れてしまった。
(みんなで俺たちをくっつけようとしてるぞ。
 それくらいのことは俺にもわかるんだ)
それに反発しようとしていないのだから、ヒャダルコだって憎からず思っているのだ。
「誤解されたがっているようにみえるな、あんた」
パルプンテは、まったく否定しないそぶりで言葉だけで否定する。
「さあ、みんなが待ってる。
 *あんたはここで待ってろ
  行くぞ、パルプンテ
戦うって言っているんだから、覚悟を見せてもらいましょう。
「行くぞ、パルプンテ
「行くぞ、ヒャダルコ!」
ヒャダルコは、生死の境をさまよったショックもなく元気だ。
まあ死ななかったのは何よりだ。
そう思おう。思わなければ。