「うん、それでいい。りっぱだったよ」
そうか。カドワキ先生は士気の低下を感じ取って
ヒャダルコに演説をさせるために呼び出したのか。
邪推してすみませんでした、先生。
そして、ニーダが見事なコントロールでガルバディアよりも高く飛行し
その校庭に正門を乗り上げた。
先発隊であり最精鋭でもある
アーヴァイン、キスティス、ゼル、セルフィが先陣を切るが
後ろからも、数は少ないながらもSeeD服と学園生徒の服がなだれ込んでいった。
一方で、アーヴァインにパルプンテ救出を命令されたヒャダルコは2階に向かう。
やはり教室からワイヤーを伝って機械を乗っ取るつもりなのだろう。
しかしエレベーターを降りたところで
年少クラスの男の子を探してくれと女子に頼まれた。まずはそちらが優先だろう。
二階の教室前に行くと、ふらふらと奥に歩いていく子どもが見えた。
おい、そっちは危ない。
第二波の侵入はそこから来たんだ。そしてまた接近しているんだ。
またやってこないとも限らないんだから。
ヒャダルコがその子を諭して、女子生徒まで走り去るのを見送ると
二階のデッキが開いてモビルスーツが一台乗り込んできた。
それはヒャダルコを跳ね飛ばし、さらに非常ドアに押し付ける。


機械の身体でクラッシュされながらも
ヒャダルコは非常口のスイッチを押してモビルスーツごと学園の外にこぼれ出た。
モビルスーツが自動飛行を続けるなか、ガルバディア兵と殴りあわなければならない。
パンチはモーションが大きいがダメージも大きい。
キックはモーションもダメージも小さい。
ガードもできる。
シンプルなゲームなのだが
六回負けた。
勝てる気がしない。
なんとかラスボスまでたどりついて最後がこのミニゲームだったら俺は苦労できない。
殴り負けて突き落とされるともう一度できるのだが
とうとう簡単にして再トライを選ばされた。
それでも負けた。
ようやく勝てたときには涙目になってたよ。


このモビルスーツは、ガーデンが正常に機能していた時期からあったものだ。
兵器としての実用性は見ての通りである。
つまり、戦闘エリートであるヒャダルコは操縦できるはずだ。
当然操縦できて、一路パルプンテがぶら下がっているという噂の場所へと向かう。
はたしてパルプンテはまだしがみついていた。
でも、はっきり言わせてもらえばこんなに長い間しがみついていられるわけがない。
おそらく、一度は身体を引き上げて、せめて両手両足をホールドできる体勢を取ったに違いない。
しかし先ほどの衝突の振動でまた足元が崩れたのだ。
なんにせよ、ギリギリだった。パルプンテモビルスーツのワイヤーにつかまった。
モビルスーツはそのまま校庭に下りていく。
校庭はガルバディア軍の第一波、第二波が保持していたから
生徒たちが反攻したのだろうか?
それとも、今回の接触のかたちではゼルたちも侵入できたが、向こうからも予定通り乗り込めたのかもしれない。
乱戦が起きている。今のところ、互角に思える。
とりあえずゲンナリすることが多いこのガーデン関ヶ原だが
ムービーはすばらしい。燃える。
特に、走り回るバイク兵を一刀で切り落とす学園生徒なんか
何度も見直したいくらいにかっこいい。
でも、もう一度あのミニゲームに勝てる自信がないからやり直さないが。
しかし、どうして師匠を使わないのだろう?
師匠がそこらにいた方がさらに迫力ある絵になっただろうに。
たとえば、おしち師匠の同類がガルバディア兵を焼き散らして
その煙が晴れたらシュウ先輩がアップで出てくるとか
そういう、師匠とシュウ先輩が好きな俺への気遣いがほしかった。


ヒャダルコパルプンテはバラム・ガーデンに向けて走る。
状況説明はできなかったはずだが、「ガーデンに突入する」の一言だけでパルプンテは従ったのかもしれない。
待機していた兵士たちを全部吐き出したあとなのか、ガーデンの入り口のひとつの周りは
一時的な騒乱のエア・ポケットになっている。
そこでようやくパルプンテは落ち着いて話すことができた。
「助けてくれてありがとう」
「いや、いいんだ」
ヒャダルコも感極まったらしく言うことが支離滅裂になっている。
「森のフクロウとは契約残ってるしみんなにはいろいろ言われてた。それに、偶然あんたを見つけて……。
 そう、ようするに偶然だ」
パルプンテは耐えられず笑い出した。
「だから、いいんだ」
「わたし、あのまま落ちるわけにはいかなかったの。
 わたし、ヒャダルコの大切な物預かってるから
 それ、ちゃんと返さないでいなくなるなんて、できないもん」
そう言って、ヒャダルコの指輪を出して見せた。
ゼルの奴めとヒャダルコは呆れる。
普通、借りたものをまた貸しするか?
それにしても、パルプンテは気丈だった。
魔女の獣に襲われた時も今回も、一人だったことと絶体絶命だったことは変わらない。
しかし、助けに来たヒャダルコにしがみついたあの時とは違って
しっかりと自分と強さを保っている。
自分があきらめると誰かに迷惑がかかる、人間はそれだけで強くなれるのだろう。