森の中で草を食んでいた鹿が、ガルバディア・ガーデンに驚いて逃げてゆく。
それでも、あんまりな低空飛行はしていないようで、森の木々をなぎ倒したりはしていない。
ガーデンが近づくなか、校庭に向かおうとしているヒャダルコ
なぜか2階に下りていた。
そこらでおろおろと散らばっている生徒たちに指示を出しながら
とりあえず教室を目指そう。
それにしても、なんで校庭に行くつもりなのに二階で下りたのだろう。
教室では年少クラスの子たちを金髪のSeeD女性が指示している。のだが
「緊張は戦闘力を20%減退させる。リラックスだ」
言われてできるなら誰も緊張しないよ。
1階に降りてきた。たくさんの学生やSeeDが走り回っている。
小麦色の肌をした大柄なSeeDが生徒たちを束ねていた。
「みんなの士気は高まってます。これもあなたのおかげですよ」
そうなのか。サイファーの名前を出したのは失敗かと思ったが
考えてみれば、あんな風紀委員が好かれるわけがないものな。
校庭に下りたら、寝ているはずのゼルが指揮を取っていた。
「みんないいかッ! この戦いがきっと最後だぜ! 何が何でも勝利だぜ!」
ヒャダルコを発見して、ここは任せてくれと頼もしいゼルである。
「おまえ、寝てたんじゃないのか?」
ヒャダルコの放送で飛び起きたらしい。
でも、来てくれっていわれたんだからブリッジに向かえよな。


少し話があるとゼルに呼び寄せられた。さっきの悪だくみの関係だろうか?
「おまえ指輪してるよな?」
何言ってんだこんな時に。
「その指輪、俺にくれ。いや、貸してくれるだけでいい。
 なくしたりしないからよ! な、貸してくれ!」
「どうする気だ?」
「理由は言えねえ。でも、貸してくれ」
なんだこの居直り強盗は。
わけがわからない。けれど、口論していても引きそうにない。しかたなく貸すことにした。
指輪をはずそうとするモーションが長い。
もうつけたまま、サイズが小さくなっているのかもしれない。
普段であればあきらめて「石鹸水!」と叫ぶくらいだったのかも。
しかし無理やりむしりとった。今は緊急事態なのだ。
「取れない。あきらめれ」
にべもなくそう断らなかったところが、やはりヒャダルコは成長していると思う。
「感謝するぜ、ヒャダルコ!」
なんでお前はそんなにうれしそうなんだ。男の指輪をもらっておいて。
気味が悪いな。
「これで俺のプライドも守れる。パルプンテも喜ぶ!」
ん? パルプンテ
そこにキスティスとパルプンテも駆けつけてきた。
私、戦う、とパルプンテは決意していた。
「私にも誰かが守れるなら、戦う。みんなと一緒にいたいから、戦う」
そういう結論を出してしまいましたか。
お父さんとしては、ずっと戦争を嫌ってっほしかったのだが。
でもたまストライクは強烈だ。期待しているぞ。
「戦わなくちゃ、あなたに認めてもらえないなら……戦う」
あー、仕方のないことなのだけれど。恋する女は視野が狭くなるね。
あそこまで好き勝手しておいて、いまさら「あなたのためにがんばります」か?
そういう、相手を思ってしたはずの変化が
「お前はもっと面白い女だと思ってたよ」というふうにふられる原因になるってことがわからんのか。
でもそんなこと言われたら普通ほだされるよな。ヒャダルコもほだされました。
「……気をつけろよ」
ヒャダルコの激励の言葉を受けて、パルプンテは防衛の列の中に潜り込んだ。


状況は刻々と変化している。
今のところ、敵の攻撃に対応するしかやることがない。
たぶん、敵さんはこのときのために色々訓練をしてきたのだろう。
初手が遅れるのはしょうがないかもしれない。
それでようやく、師匠と一般兵で互角になるのだと思うし。
ニーダの取り乱した声に呼び出されてブリッジへ戻ると
「見ろ!」
眼前に、接近するガルバディア・ガーデンが迫っていた。
視認できる場所にサイファーが立っている。
少なくとも貫禄では立派な指揮官になったな。
なんとなく、敵方とはいえうれしいです。
「向こうはサイファーが指揮してるぞ。やつら、正面から来る気だ!」
ガルバディア・ガーデンの中では
たくさんのバイクがサイファーの命令を待っていた。
ルートが青に変わり、バイクが走り出す。
角度をつけたレールを飛び出した先は、空。
ガルバディアの生徒や軍人というのはすごいことをするんだな。
あるいは、イデアにそう洗脳されているのか。
敵方であるにもかかわらず、彼らが墜落しないようにと祈ってしまうが
祈りが届いたのか、フル回転するタイヤはバラム・ガーデンの外壁にしっかりと噛みついた。
校庭からたくさんのバイクが乱入を開始した。


ゼルたちはバイクの侵入を根本から断とうと校庭に向けて走る。
「もっともっと走れ!」と言っていたゼルだが
いきなり立ち止まるとヒャダルコの指輪をパルプンテに渡した。
なにやってんだ。この非常事態に。
「これ見ながら同じの作ってやるよ。だからそれまで待っててくれ」
つまり
パルプンテヒャダルコと同じ指輪を欲しがって
バラムでは親方に器用さを見込まれていたゼルに作ってくれといった。
ゼルはもちろん任せとけと言ったのだが
寝る間を削ってはみたものの、いかんせん記憶だけではなんともできず
ヒャダルコに現物を借りたのだろう。
それはわかるのだが、いま話すことじゃないだろう。
何とかいってください、キスティス先生。
「なんて言って借りたの?」
その言葉には、よく承諾したなあの無愛想がという尊敬が込められている。
「あん? ただ貸せって言っただけだぜ」
ゼルも得意げだ。
それはわかるのだが、いま話すことじゃないだろう。
何とか言ってください、キスティス先生。
パルプンテはしげしげと見つめて
「……かっこいいけど、サイズ大きすぎ」
「みんな戦ってるんだからあとにしましょ。さあ、行くわよ」
助かりました、キスティス先生。
ああ、止め役がセルフィじゃなくてよかった。