最初のすれ違いでサイファーが打った手は、バイク部隊による校門、正門からの侵入だった。
二度目の作戦は、モビルスーツの投入である。
以前ガルバディア・ガーデンを訪れた時学園の上空を飛び回っていた個人用の飛行機だ。
それらは外壁に取り付くと、兵士だけが離脱してワイヤーで下っていった。
狙いは各教室である。ガラス窓を蹴破って侵入を開始する。
ヒャダルコが教室に到着したのと、その教室にも兵士がなだれ込んだのと同時だった。
兵士は操作技術、ワイヤーの扱いなどは立派だったものの
アーヴァインの速射弾で全員地に伏した。
どうやら第二陣はこの教室には来ないようである。
そしてまたニーダに呼ばれた。
カドワキ先生が来ているからブリッジに来い、という。
なんでまた、カドワキ先生が。
自分の分を守って保健室で治療でもしていればいいのに。
ここまでヒャダルコにまかせっきりで、戦況が思わしくなくなったら責任追及に出たのだろうか。
(説教かよ)
ヒャダルコもうんざりしているが、それでもブリッジに呼ばれたのなら行かなければならない。


学園長室にはカドワキ先生が来ていた。
「どんな感じなの?」
なんでこの養護教諭は知って当たり前の態度なのだろうか。
戦闘関係の責任者ってことは、報告責任もないと思うのだが。
しかし昔からカドワキ先生には逆らえない。ヒャダルコは説明した。
「第一波、第二波は何とか食いとめたと思う。
 その代わり、生徒たちはボロボロだ。もう一波きたらもう……」
セルフィもやってきた。彼女が持ち場を離れられるということは、正門もまた鎮圧したのだろう。
お互いが地続きではなく、ミサイルなどの遠距離攻撃がない以上
近づいては兵士を乗り移らせて乗っ取る、という海戦方式しか採れない。
バイクの第一波、モビルスーツの第二波を何とか鎮圧できたのは
地の利もあってのことだろう。
それでも、生徒が大半を占めるバラム・ガーデンよりはガルバディア軍の方が戦力としては上で
もう学園生徒は満身創痍となっていた。
「もう、ここまでってことかい?」
戦いもしないくせに偉そうに不謹慎なことを言うな、このおばさんは。
本当に腹が立つ。
「あっちのガーデンに乗ってるのはほとんどがプロの兵士みたいね」
キスティスが呟いた。
確かにバイクの突入といい、モビルスーツでの取り付きといい
プロの兵士でもなければ説明がつかない各個の技術である。
それよりもなによりも、というか恐怖の線が一本切れているやつらだと思う。


「こっちは訓練中の生徒ばかり。ヒャダルコの言うとおりあと1回でも攻撃を受けたら……」
「あっちにはサイファーがいるんだろ?
 あんた、あの子から逃げるわけにはいかないんだろ?」
五歳の頃からサイファーとケンカしては保健室で赤チンを塗ってもらってきたヒャダルコである。
その辺はカドワキ先生も知っているはずだ。
サイファーの名前を出せば、こいつは絶対に逃げないと。
「カッコつけるんなら今しかないよ!
 ここまで来て何考えてるんだい? 逃げるんじゃないだろうね?」
その言葉にはヒャダルコもかちんときた。誰が逃げるか。
「そんなことはしない。こっちから攻め込めばチャンスはある。
 問題は、どうやって向こうのガーデンに乗り込むかだ」
第一回、第二回ともに兵士を送り込まれたから防戦一方になった。
そういうやり方では、戦力の水準で劣るバラムがジリ貧になる。
だが、ことヒャダルコたち六人に限って考えれば、あるいは他のSeeDたちにしても
師匠がついている以上、ガルバディアの一般兵に負けはしない。
どうにかして向こうに精鋭部隊を乗り込ませて向こうからの攻撃を封じることができれば
すくなくとも一般の生徒たちにこれ以上の被害を出さずに済む。それがヒャダルコの狙いだった。
だが、バイクはないしモビルスーツもいない。どうやって向こうに乗り移るのか……。
アーヴァインの提案は、このガーデンを向こうにぶつけるというものだった。
ガーデンが外と出入りできる場所は、二階デッキと正門、校庭である。
そのうちのいずれかを、向こうに乗り上げる。できればそのまま逆進してその状態を維持する。
ガルバディアとしては、乗り込むために待機しているのだから
逆に乗り込み返すための動きはどうしても遅れるはずだ。
問題は、それが技術的に可能かどうかだが。
「あっちのガーデンの操縦士がやってるんだ。ニーダにできないわけないさ」
考えてみれば、ニーダは不眠不休で船の操縦をしてくれてるんだもんな。
マニュアルを作って、交代交代でやってるガルバディアの操縦士とはわけが違う。
何しろニーダには名前があるんだ。