途方にくれたゼルがやってきた。
「ダメだ、校庭に行く道がないんだ。やつらがバリケードを張って通さないんだ」
なるほど。
第一波、第二波の残存兵は侵入地点として校庭を確保したのか。
ということは、向こうも第三波は接触して一般兵の大量投入を考えているのだろう。
そうなら、向こうの上陸部隊は突入予定口で待機しているはずで
それ以外のところに乗り上げることができれば対応は遅れる。
これはチャンスかもしれない。俺はとっさにそう考えたが、話題はパルプンテのことだった。
いや、もう、いくらなんでも落ちてるだろ……。
「屋根を伝っていくか空でも飛ばない限りパルプンテのところに行くのは無理だ」
空を飛ぶ道具なら、外壁に大量に取り付いている。
あそこまでどうやっていくか。教室の窓からワイヤーを登っていけばよかったのか。
でも、もう死んでるだろ。
ヒャダルコがちらりと考えたことをアーヴァインは見逃さなかった。
「ちょっと待てよ。あんた、今、あきらめただろ」
ちょっと待てよ。なんであきらめないんだよ。
「頼みがある。……あんた、パルプンテを助けろ。
 どうにもならないのかもしれない。
 それでも、もう、どうしようもないって思うまで努力してみてくれ」
これが、仲間がヒャダルコに感じていた不満だったのかもしれない。
悪い方に考えすぎて、精一杯努力して悪い結果だったことを恐れるから
あきらめが早いところがあったのかもしれない。
事実かどうかはともかくそういう人間だと思われていたのだろう。
One for all, all for one.ではないが
部隊の仲間が、少しでも希望があれば努力をしてくれると信じられるからみんな戦えるのかもしれない。
ヒャダルコのことを信じたいから、ここでパルプンテを助けるために努力してほしいのだろう。
でも俺は攻撃部隊の指揮をとらなければ。そうヒャダルコが反論すると


「あんたの事情も気持ちもどうでもいいんだ」
かっこいいな、アーヴァイン。
「ただ、パルプンテのためにそうしてやってくれ」
みんなも、この事態にも関わらずそれに賛成している。同じ思いなのだろう。
「僕はガルバディア・ガーデンの中は詳しいからみんなを案内する」
「私たちで道を切り開いておく。ヒャダルコが着たら、最後の攻撃よ」
それは、正しい判断なのか。個人ではなく委員長になった人間がしていい判断なのか。
頭をかかえるヒャダルコ
カドワキ先生がもう一言つきつけた。あんた、ここにもう一仕事残ってるよ。
そしてブリッジに導いた。
「生徒たちに勇気をあげなさい。あんたはみんなの指揮官なんだからね」
ニーダも操縦桿から手を放してヒャダルコに向き直った。
「あんた、けっこうみんなに慕われてるんだぞ」
『……こちらはヒャダルコだ』
あんなに会話が嫌いだった子どもが、拒否せずしゃべっています。
それだけでなんだか感動である。
『みんな、怪我の具合はどうだ? 戦いに疲れて立っているのも辛いかもしれないな。
 でも聞いてくれ。勝利のチャンスのために力を貸してくれ』
そして作戦を説明した。
次の接触では、攻撃部隊に攻め込まれる前に少数精鋭で切り込んで、敵陣を攪拌するつもりだと。
『そのために、このガーデンをぶつけることにした』
衝撃に耐えられるように、お互いを助け合え。
年少クラスは必ず守れ。
余力のあるものは先発隊をサポートするように。
それらの指示は落ち着いており、まだ無事な生徒たちは隊列を組みなおして聞き入っている。
『SeeDは魔女を倒すためにいて、ガーデンはSeeDを生み出すために作られた。
 つまり、これはガーデンの本当の戦いということになる。
 きつくてイヤになるような戦いだ。でも後悔はしたくない。
 みんなの残っている力を全部俺に貸してくれ』
最初に読んだとき、最後の一文は蛇足じゃないかと思った。
学園生徒たちにすれば、SeeDが魔女に敵する存在だからここまでやられるのだろうと
逆に学園長やヒャダルコに怒りをぶつけてもおかしくないかなと。
しかし、実際に攻め込まれて友達を殺された人間にとっては
どこかに拳の振り下ろし場所が必要だろう。
そこで「ガーデンはそもそも魔女と戦うべきもので、これは聖戦なのだ」と言われれば戦意も昂揚するだろう。それを示すように、二階の通路で先ほどまでうめいていたけが人たちも立ち上がった。